下肢静脈瘤とは
静脈は、動脈によって体のすみずみに行きわたった血液を心臓に戻す役割をしています。静脈には逆流防止弁がついているため、通常血液が逆流することはありません。
しかし、何らかの原因で静脈の逆流防止弁が壊れることで発症するのが下肢静脈瘤です。
逆流防止弁が壊れると不要な血液が再び足に戻ってしまいます。すると、戻った血液によって静脈が膨らみ、皮膚を持ち上げることで足の血管が「コブ」のように見えるようになります。
下肢静脈瘤は良性の病気ですが、自然に治ることはありません。放置したままでも健康状態に深刻な影響を与えることはありませんが、治療を行わない場合、皮膚の色素沈着・皮膚潰瘍等の症状は進行していきます。
下肢静脈瘤の進行
初期症状として、むくみやだるさがありますが、痛みなどはないため放置する人も少なくありません。症状が進行し、コブのように血管が膨らんでくると見た目の観点から人前で足を出すことをためらわれるようになります。
このまま放置していくと、くるぶしが硬くなってきたり(脂肪皮膚硬化症)、色素沈着による黒ずみが現れてきます。更に重症化すると、皮膚に穴があき出血することもあります。
Stage 1
くもの巣状静脈瘤
Stage 2
網目状静脈瘤
Stage 3
伏在型静脈瘤
Stage 4
色素沈着
Stage 5
潰瘍出血
下肢静脈瘤の原因
下肢静脈瘤はどなたでも起こる可能性がありますが、「下肢静脈瘤になりやすい傾向」があります。
遺伝
様々な原因の中で、遺伝的要素が一番大きく関係します。
どちらかの親が下肢静脈瘤の場合50%、両親ともに下肢静脈瘤の場合は90%の確率で子供は下肢静脈瘤を発症すると言われています。
立ち仕事
血液は立っている時には重力によって下から上へ流れようとします。すると逆流防止弁には常に負担がかかっていることになります。
逆流防止弁への負担が長時間に及ぶと、徐々に働きが悪くなります。
年齢
加齢により、静脈弁が老化し、逆流を防止する力が弱まってきます。
出産経験のある女性
女性ホルモンの影響により妊娠時に、静脈弁が軟らかくなります。さらに胎児により中心の静脈が圧迫されるために、逆流防止弁が壊れやすくなります。
下肢静脈瘤の治療
血管内焼灼術(高周波治療)
従来のレーザー治療と比較し、手術痕は針の跡がつくのみで痛みも軽減されております。手術は局所および、静脈麻酔を行います。
足に細い針を刺し、高周波カテーテルを静脈の中に通し、中から高周波を照射し、静脈を焼灼閉鎖します。
コブ状の箇所は通常、3~6ヶ月ほどで自然に縮小していきます。
血管内焼灼術のメリット
- 体への負担が少ない
- 小切開あるいは切らずに治せる
- 治療時間が短い
- 治療の痛みが少ない
- 術後すぐに歩ける
- 日常生活への復帰が早い
- 入浴の制限がない
- 保険診療が適用される
血管焼灼術の合併症・副作用
感染 |
細菌による炎症 |
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深部静脈血栓症 |
足の奥にある静脈に血栓(血のかたまり)ができ、肺塞栓症を起こす可能性があります。 |
再発 |
静脈瘤が再発する可能性がありますが、状態に応じて適切な治療を行います。 |
色素沈着 |
治療した血管に沿って皮膚にシミが生じることがありますが、1年ほどで薄くなります。 |
神経障害 |
血管の焼灼により、血管に隣接した細い神経がダメージを受け、しびれや知覚障害が起こることがあります。通常、数か月~1年程度で回復します。 |
薬によるアレルギー |
手術の時に使う麻酔薬でアレルギー反応を起こすことがあります。アレルギーが生じた場合は手術を中止し、アレルギーに対する治療が必要となる場合があります。 |
血栓性静脈炎 |
静脈瘤(コブ)の部分や焼灼した血管が炎症を起こし、痛みが出る場合がありますが、通常、鎮痛剤の内服により2~3週間で軽快します。 |
血管内焼灼術(高周波治療)の留意点
予約の要否 | 初診は診察順番予約で番号をお取りになりご来院ください。 |
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手術日 | 初診時に手術日をご予約いただき、後日手術を行います。 |
手術時間 | 片側15分 |
ダウンタイム | 7日 |
抜糸 | - |
通院回数 | 4回(診察・検査/手術日/1ヶ月/6ヶ月) |
持続性 | ★★★ |
コンタクトレンズ | - |
洗顔 | - |
シャワー | 翌日から可能 |
入浴 | 翌日から可能 |
メイク | - |
備考 | ・手術翌日からシャワー、入浴が可能になりますが、サウナは14日目以降からお願いいたします。 ・立ち仕事、ウォーキングなどの軽い運動は2日目から可能になります。 ・スポーツジムなどでの激しい運動は8日目から可能です。 |
血管内塞栓術(ベナシール治療)
医療用の瞬間接着剤を静脈の中に注入し固めて、逆流をとめる新しい治療方法です。
ベナシール治療は、保険診療で治療を受けることができます。
血管内塞栓術(ベナシール治療)は令和5年6月より治療を開始いたしました。
血管内塞栓術のメリット
- 局所麻酔は針を刺す部分のみ、大量の局所麻酔は不要
- 治療後より、ジョギングなどの軽い運動や飛行機での移動が可能
- 手術後の合併症である深部静脈血栓症やしびれなどの神経損傷のリスクが少ない
- 手術後に弾性ストッキングを履かなくてもよい
血管内塞栓術(ベナシール治療)の合併症・副作用
静脈炎 |
最も多い合併症です。手術後、数時間~2週間にグルーを注入した太ももが赤く腫れ、痛みを生じます。通常、自然に収まりますが、痛み止めを処方します。 |
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血栓性静脈炎 |
治療数日後に静脈瘤(コブ)の部分が炎症を起こし、赤くなり痛みが出る場合があります。通常、鎮痛剤の内服により1週間ほどで軽快します。 |
アレルギー |
グルーを注入した太ももが静脈炎と同様に赤く腫れ、かゆみを伴います。症状が重い場合には、全身に蕁麻疹が生じることがあります。抗アレルギー剤やステロイドで治療を行います。 |
感染 |
まれに起こる症状です。足が赤く腫れ、痛みを伴います。注入したグルーに細菌が感染した場合に起こります。抗生物質で治療を行います。 |
深部静脈血栓症 |
極稀に起こる合併症です。一般的な言葉で言うところの、エコノミークラス症候群です。足の奥にある静脈に血栓(血のかたまり)ができ、肺塞栓症を起こす可能性があります。 |
血管内塞栓術(ベナシール治療)の留意点
予約の要否 | 初診は診察順番予約で番号をお取りになりご来院ください。 |
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手術日 | 初診時に手術日をご予約いただき、後日手術を行います。 |
手術時間 | 30分 |
ダウンタイム | 7日 |
抜糸 | - |
通院回数 | 4回(診察・検査/手術日/1週間後/3ヶ月後) |
持続性 | ★★★ |
コンタクトレンズ | - |
洗顔 | - |
シャワー | 当日から可能 |
入浴 | 当日から可能 |
メイク | - |
備考 | ・手術当日からシャワーが、翌日からは入浴が可能になりますが、サウナは14日目以降からお願いいたします。 ・立ち仕事、ウォーキングなどの軽い運動は2日目から可能になります。 ・スポーツジムなどでの激しい運動は8日目から可能です。 |
硬化療法
硬化療法とは、硬化剤(泡状にした薬剤)を細い針で直接静脈瘤内に注入する治療法です。他の治療と比較し短時間で行えます。一般的に数回に分けて行います。
高周波治療の適応にならない静脈や、皮膚上から見える細い静脈(クモ状や網目状の血管)に対して行います。
硬化療法のメリット
- 麻酔が不要
- 短時間で治療が終了(約5~10分ほど)
硬化療法の合併症・副作用
内出血 |
まれに、内出血がみられることがありますが2~3週間ほどで消失します。 |
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腫れ |
まれに刺入部の腫れがみられることがありますが、2~3週間ほどで消失します。 |
痛み |
まれに痛みを生じることがありますが2~3週間ほどで消失します。痛み止めを処方します。 |
色素沈着 |
治療後2~3ヶ月でシミ(色素沈着)が目立ちやすくなりますが、1~2年ほどで消失します。永久的に残ることはほぼありませんが、紫外線を浴びると残りやすくなります。日焼けにご注意ください。 |
しこり |
治療後4~5週で目立ちやすくなりますが、その後徐々に縮小していきます。ただし、元の静脈瘤が大きい場合は1年以上かかる場合があります。しこりが消えるまで刺激を与えないようにしてください。 |
硬化療法の留意点
予約の要否 | 初診は診察順番予約で番号をお取りになりご来院ください。 |
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手術日 | 即日可能 |
手術時間 | 5分 |
ダウンタイム | なし |
抜糸 | - |
通院回数 | 1回 |
持続性 | ★★★ |
コンタクトレンズ | - |
洗顔 | - |
シャワー | 当日から可能 |
入浴 | 当日から可能 |
メイク | - |
弾性ストッキングによる圧迫療法
弾性ストッキングによる圧迫療法とは、名前の通り着圧の強い靴下を履くことで、足から心臓へ血液を送り返すサポートをしてくれます。
手術と比べ低価格で治療を行うことができますが、保険適応にはならず、履いている間しか効果がありません。
また、静脈瘤の進行を止めるだけなので、根本的な治療にはなりません。
弾性ストッキングによる圧迫療法のメリット
- 手術と比較すると低価格
- 短時間で治療ができる
- 履くだけなので負担が少ない
手術料金
保険診療
- 下記料金以外に初診料、再診料、処方料、薬剤料がかかります。
- 短期滞在手術基本料は下記料金に含まれております。
- クレジットカードが使えます。
- 下肢静脈瘤の診断・検査・手術はすべて健康保険が適応されます。
血管内焼灼術
片足 |
3割 35,000円程度
2割 18,000円程度
1割 12,000円程度 |
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両足 |
3割 70,000円程度
2割 18,000円程度
1割 18,000円程度 |
硬化療法
片足 |
3割 5,500円程度
2割 3,600円程度
1割 1,800円程度 |
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両足 |
3割 11,000円程度
2割 7,200円程度
1割 3,600円程度 |
血管内塞栓術(ベナシール治療)
片足 |
3割 48,000円程度
2割 18,000円程度
1割 16,000円程度 |
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両足 |
3割 91,000円程度
2割 18,000円程度
1割 18,000円程度 |
利用できる制度について
医療費控除
領収書を元に医療費控除を受けることができます。
ご自身または、扶養している家族のために支払った医療費について、一定の金額の控除を受けることができます。詳しくはお近くの税務署へご相談ください。
※領収書の再発行はできませんので、大切に保管してください。
高額療養費制度
医療機関で支払った額が同一月内で一定の金額を超えた場合に、超えた金額を支給する制度です。
上限額は、年齢や所得によって異なります。詳しくは加入医療保険組合へご相談ください。
民間の生命保険・医療保険
ご加入中の民間生命保険・医療保険により、手術費用が支給される場合がございます。ご加入の保険会社にご確認ください。
生命保険会社指定の診断書が必要となります。(1通5,500円)
下肢静脈瘤 硬化療法
コード:K617-2
手術名:下肢静脈瘤硬化療法(かしじょうみゃくりゅうこうかりょうほう)
下肢静脈瘤 血管内焼灼術
コード:K617-4
手術名:下肢静脈瘤血管内焼灼術(かしじょうみゃくりゅうけっかんないしょうしゃくじゅつ)
下肢静脈瘤手術 血管内塞栓術
コード:K617-6
手術名:下肢静脈瘤血管内塞栓術(かしじょうみゃくりゅうけっかんないそくせんじゅつ)
Q&A
Q. 手術は痛いですか?
A. 局所麻酔(歯の麻酔と同じもの)の時に痛みはありますが、手術中は痛みはありません。
Q. 手術後は痛いですか?
A. 手術後は痛みのない方が多いですが、まれに痛みやつっぱり感を感じる方もいらっしゃいます。そのような場合でも立つことや歩くことに支障はほぼありません。
手術直後は痛みがなくても、術後2~3週間目から痛みを感じる方がいらっしゃいます。もし痛みを感じた場合でも、術後1ヶ月ほどには大幅に改善します。
Q. 手術時間はどれくらいですか?
A. 硬化療法では約5分ほど、高周波治療は約15分ほどになります。
Q. 手術後の処置は?
A. 手術当日は特別な安静は必要ありません。痛みを感じた時は我慢せず処方された痛み止めを服用してください。手術当日の就寝時にバスタオルを敷き、包帯とストッキングを着用したまま就寝します。翌朝、弾性ストッキングを脱ぎ、包帯を外してください。
Q. 入浴はいつから可能になりますか?
A. 手術当日は入浴・シャワー共にお控えください。翌日からシャワー入浴は可能になります。8日目から公共のお風呂や温泉に入ることができるようになり、14日目からサウナも可能となります。
Q. 翌日から仕事へ行けますか?
A. 翌日から家事や事務仕事、自転車や車の運転は可能になります。立ち仕事や力仕事は術後2日目から可能になります。
Q. 運動やマッサージはいつからできますか?
A. ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い運動は2日目から可能になります。スポーツジムでの激しい運動や、登山は14日目以降からとなります。
下肢を含むマッサージも14日目以降からになります。
Q. 下肢静脈瘤に男女差はありますか?
A. はい、あります。男女比ではみると男性:1に対し女性:2~3と女性に多く見られる病気です。
理由としては「女性の方が筋力が弱く筋ポンプ作用が働きにくい」「妊娠時にホルモンの影響により静脈が柔らかくなって弁が壊れやすくなるため」などがあります。男性も発症しないわけではありませんが、女性と比較すると約半分~1/3ほどです。